産後は安静にすべき理由
出産直後の期間を産褥期(さんじょくき)と呼びます。産褥期とは身体が妊娠前の状態に戻るまでの期間のことをいいます。
産褥期は個人の回復力にもよりますが、おおよそ6〜8週間ほどかけて子宮など全身状態が妊娠前の状態に戻ると言われています。
そのためこの期間に無理をしないことが大切です。
出産直後で、骨盤や子宮、会陰の状態などはじめ全身が悲鳴をあげている時期なので、忙しく動き回ったりすると後々の体調不良に繋がることがあります。
赤ちゃんの育児だけでも忙しい時期です。家事や身の回りのことは、できるだけ家族や外部のサポートなどに頼るようにしましょう。
産後は「体が大きなダメージを負っている」と認識し、しっかり休まなければなりません。
では、具体的にどのくらいの期間安静にする必要があるのでしょうか。
この点、分娩方法やお母さんの体力にもよりますが、概ね1ヵ月をみておきましょう。
なかには「1ヵ月も休めない!」と焦る方もいらっしゃると思いますが、産後1ヵ月の安静は、「1ヵ月丸々寝たまま過ごす」のではなく「1ヵ月間はなるべく家事や仕事をセーブし、体の回復を優先させる」という意味です。
すでに上のお子さんがいらっしゃる場合は難しいこともありますが、ぜひパートナーと協力して体の回復を最優先にできる体制を整えてください。
職場復帰の予定がある方は、この時期の休養がのちの仕事のパフォーマンスに大きく影響するので、しっかり体を休められるようにしましょう。
とにかく、体に負荷がかかったり、分娩時の傷が激しく痛んだりするような行動は控えてください。
産後になるべく避けた方がいいこと
産後に無理をすると、元の身体に戻ろうとする過程に大きな影響を及ぼしてしまいます。
妊娠中に産後の過ごし方について、夫婦やご家族でしっかり話し合っておくことが大切です。
重度な家事や仕事
全身が大きくダメージを受けた状態ですから、日々の家事や仕事も最低限に抑えましょう。
昔の人たちは、特に中国などでは出産直後のお母さんが日々の家の仕事を無理しておこなってしまうことを避けるように「出産直後は水を使う家事仕事はダメ」という風習が今も残っています。
文字通り「水」がいけないなら「お湯」はいいんだ、という話ではありません。
別に水道水を使ってコップを洗ったりするのがいけないことではありませんが、代用できることは食洗機を利用したり、夫に後片付けをお願いしたりしましょう。
激しい運動・食事制限などのダイエット
産後は早く体形や体重を元に戻したいと思うママも多いかもしれませんが、産褥期の激しい運動や食事制限などのダイエットは避けましょう。
出産後は体力を消耗している状態です。母乳育児で赤ちゃんにしっかり母乳をあげるためにも、ダイエットは避け、バランス良くしっかり食べましょう。
運動は1ヶ月検診で体調に問題が無ければ、軽いストレッチなどから始めていくことがおすすめ。
出産によって身体は大きなダメージを受けていますので、身体に負荷のかかる筋トレやランニングなどを始めたいときは、医師や専門家に時期や進め方など相談すると良いでしょう。
飲酒
お酒に含まれるアルコールは母乳に移行し、赤ちゃんの成長を妨げるといった影響を及ぼす可能性があります。
もし、母乳育児中に飲酒する際は、飲酒後2~3時間空けて授乳することが推奨されています。
しかし、生まれて間もない赤ちゃんは頻回授乳になることも多いため、授乳時間を空けるのが難しい場合も多いでしょう。
また、ママが飲酒することによって母乳の分泌を促すホルモンの働きが抑制され、母乳の量に影響を与えるとも考えられています。
産後の飲酒はできれば赤ちゃんの授乳間隔が空くようになるまでは避けた方が良いでしょう。
産後の身体の変化・痛み
出産によって、母体は妊娠中のお腹の赤ちゃんを大きく育て守る働きを終えることになります。
その後は、母乳によって赤ちゃんを育てながら、自分の身体も妊娠前の状態にゆっくりと戻っていくのです。
具体的な産後の身体に起こる変化や痛みについてみていきましょう。
会陰や帝王切開の傷口が痛む
経腟分娩の場合は会陰裂傷や会陰切開による痛みがあり、座ることが困難な状態になる人もいます。円座をつかい傷口への負担を減らしましょう。
傷を早く回復させるためには清潔に保つことが一番です。産後パッドを小まめに交換し、トイレの温水洗浄を利用して会陰を清潔に保つようにしましょう。
帝王切開の場合は、産後1週間程度は日常生活で痛みを感じやすく、鎮痛剤を服用しながら過ごすことになります。
寝返りや歩行で激痛を感じることもあるため、傷が回復するまでは無理せず自分のペースで生活するようにしましょう。
傷口を寄せるようにしてテープを貼ることで、手術痕がケロイド状になるのを予防しましょう。
乳房や乳首が変化する
出産後2~3日ごろから母乳分泌ホルモンが分泌され始めます。赤ちゃんがおっぱいを吸うと、更にホルモン分泌が盛んになるため、産後はできるだけ早く赤ちゃんに母乳を吸わせせ、1日8回以上の頻回授乳を意識しましょう。
赤ちゃんがうまく吸い付けない場合には、乳頭マッサージや搾乳をして刺激し、分泌を促しましょう。
母乳の分泌量が増えると、乳房全体の張りが強くなります。産後はバストを締め付けすぎないブラジャーを選び、母乳パッドを小まめに交換して清潔に保ちましょう。
ホルモンバランスの変化
妊娠中に分泌量が増えていた女性ホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)は、産後急激に減ります。
また、母乳分泌のためのホルモン(プロラクチン)が増加し、女性ホルモンの分泌が抑えられるため、1日8回以上の頻回授乳をしている間は、生理の再開がない場合が多いです。
もちろん個人差があり、授乳していても1カ月で生理が再開する人もいれば、1年以上来ない人もいます。
そうした妊娠前とは違うホルモンバランスにより、髪の毛が抜けたり、肌が荒れたり、様々なトラブルが起こりやすくなります。
ホルモンの分泌は自分ではコントロールできるものではないので、赤ちゃんが寝ている間は一緒に休んで良質な睡眠をとったり、栄養バランスの良い食事を摂ったり、小さな不安でも話せる家族や友人、相談先を持っていることがとても大切になります。
1カ月検診で母子ともに問題がなければ、無理をせず少しずつ元の生活へ戻していきましょう。
回復にかかる期間は、産後5~8週間で妊娠前の状態へ戻っていくと言われていますが、個人差がかなりありますので焦りは禁物です。
この時期には会陰切開や帝王切開の傷口も癒え、身体が元の状態に戻ってきます。
身体の戻りには個人差が大きく、完全に妊娠前の状態に戻るまでに、3ヶ月~1年ほどかかる人もいます。
お宮参りも暑い時期や寒い時期には無理せず、体調優先で無理をせず計画してみましょう。
監修:産婦人科医 宗田聡先生

筑波大学卒業後、同大学へ産婦人科医師として勤務。その後、海外の大学への派遣や、周産期センター長を経て、現在は医療法人HiROO理事長・広尾レディース~恵比寿本院~の院長を務める。「誰にでもいいお産を味わってもらいたい」という思いで、妊婦さんや出産をはじめ女性医療と真摯に向き合っている。